主な悪性腫瘍におけるFDG-PET/CTの有用性と限界 2016年3月版
1.悪性リンパ腫
悪性リンパ腫の病期診断、治療効果判定、再発診断に、FDG-PET/CTはなくてはならない検査となっています。
相澤病院PETセンターでは、病期診断で緊急性がある場合、稼働日であれば、次の日や当日でも検査を行います。ご相談下さい。
主な組織型による集積程度
強い集積を呈するもの
- びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)
- NK/T細胞リンパ腫
- ホジキンリンパ腫
- Burkittリンパ腫など、悪性度の高いもの
集積が強いことも弱いこともあるもの
集積が低い、あるいは陰性となるもの
骨髄浸潤の診断DLBCLやホジキンリンパ腫は診断に有用とされますが、濾胞性リンパ腫では偽陰性が多いです。一般的に骨髄生検は省略できません。
血管内リンパ腫全身では特徴的な所見がみられます。腫瘤を形成しない脳血管内リンパ腫は診断が困難です。
FDG-PET/CTによる治療効果判定基準(Lugano分類)
Lugano 5ポイントスコア
- 集積を認めない(バックグラウンド以下)
- 縦隔以下の集積
- 縦隔を超えるが肝臓以下の集積
- 肝臓よりやや高い集積
- 肝臓より著明に高い集積 and/or 新病変
] リンパ腫とは関連のない集積の出現
効果判定基準
- Complete Metabolic Response :スコア 1, 2, 3
- Partial Metabolic Response :スコア 4, 5 で集積低下
- No Metabolic Response :スコア 4, 5 で集積同等
- Progressive Metabolic Disease :スコア 4. 5 で集積増強
2.肺癌
最新の肺癌診療ガイドラインでは、スリガラス影を主体とする病変を除き、病期診断にFDG-PET/CT検査を行うことが推奨されています。
集積が強い悪性腫瘍
- 悪性度の高い腺癌、扁平上皮癌、小細胞癌、大細胞癌など
- 悪性リンパ腫
集積が低いもの
集積が強い良性病変
- 活動性肺炎
- 硬化性血管腫強い集積を呈することがあります。
- 過誤腫一般に低集積ですが、集積を呈することがあります。
- サルコイドーシス
リンパ節集積高齢者や肺気腫のある方は、慢性炎症性変化による強い肺門リンパ節集積がみられます。左右対称性や、CTでのリンパ節の性状などで、転移が疑われるかを診断します。
脳転移小さな脳転移はFDG-PET/CTでは診断できません。ガイドラインでも造影MRIあるいは造影CTの追加が推奨されています。
再発診断高集積の肺癌の治療後は、FDG-PET/CTによる再発フォローが望ましいと思われます。
3.大腸癌
大腸癌は一般的に強い集積を呈します。
集積が低い場合
- 表在型や平皿型の早期病変。
- 消化管カルチノイド(神経内分泌腫瘍)
悪性度にかかわらず、集積が低いことがあり、FDG-PET/CTはあまり有用ではありません。転移も偽陰性となることが多く有用性は低いです。
有用な場合
- 内視鏡不通過症例進行癌で、内視鏡が通過できない場合、口側重複癌の有無の診断にFDG-PET/CTが有用です。
- 肝転移症例の全身転移検索肝転移を有する症例の1/4に骨転移など他の遠隔転移が発見されるという報告もあります。PETによる全身検索を加えるべきと思われます。
- 再発診断リンパ節再発、腹膜播種、遠隔転移の診断に極めて有用です。腫瘍マーカーの上昇があるのにCT等で再発が不明な場合には特に有効です。
あまり有用でない場合
- 一般的な大腸癌で、CTで遠隔転移を疑う所見が無い場合、側方リンパ節や傍大動脈リンパ節転移が特に問題とならない場合は、必ずしもFDG-PET/CT検査は必須ではないと思います。
- 1cm未満の小さな肝転移は検出できないことがあります。
- 腸管傍リンパ節転移は集積が不明なことがあります。CTと併せて診断します。
保険適応にならない場合
便潜血陽性で大腸内視鏡検査を拒否された場合や、CEA高値の原因病巣の検索などは、保険適応外と考えております。
4.胃癌
胃癌は組織系によってFDG集積程度が大きく異なります。
分化型胃癌は集積が強いことが多く、転移診断や再発診断に有用です。
未分化癌、特に印環細胞癌は、ほとんどの症例でFDG集積がみられません。転移診断や再発診断を含めて、FDG-PET/CTが有用でないことが多いです。
腹膜播種の診断には有用な場合とそうでない場合があります。
ご依頼時に、組織型を付記して頂けますと診断の助けとなります。
5.乳癌
- 当院のドックFDG-PET/CTでの乳癌発見率は 0.71%、陽性的中率は 29.03%で、マンモグラフィや超音波による発見(発見率 0.29%、陽性適中率 2.81%)よりも良好な成績でした(外科橋都医師による2009年1月〜2012年12月 1260人対象の検討)
- 初期病期診断、再発診断にFDG-PET/CTを行うことは未だ賛否両論ありますが、胸骨傍を含めたリンパ節転移の診断や、骨転移を含めた遠隔転移診断、NAC後効果判定、再発症例の治療モニタリング、治療後再発診断に有用と思われます。
6.膵癌
- 集積が低い膵癌が多々経験され、診断に限界があります。
- 膵癌存在診断の第一選択は、薄層造影CT、次にMRIです。
- CA19-9上昇時に膵癌があるか否かの目的でFDG-PET/CTを行うのは、あまり有用ではありません。また保険適応外です。
- 所属リンパ節転移診断にはあまり有用ではありません。
- 遠隔リンパ節転移や肝転移、遠隔転移の診断にFDG-PET/CTは有用です。
- 術後再発診断に有用です。
- 自己免疫性膵炎の診断、IgG4関連疾患の全身診断に極めて有用です(保険適応外)。
7.前立腺癌
- 前立腺癌の多くはFDG-PET/CTで描出されません。一方、炎症などで強い集積を呈することが多く、偽陰性、疑陽性が多い癌です。原発巣診断には有用ではありません。
- 骨転移も、硬化性骨転移が多くPETでは見えないことが多いです。PET/CTのCTで診断が可能です。
- リンパ節転移や、軟部組織への転移の診断には、FDG-PET/CTを追加する意味があると思われます。
8.腎癌
組織型による集積程度の違い
- 腎細胞癌のうち、頻度が高い淡明細胞癌と嫌色素細胞癌は、正常腎と同等の淡いFDG集積を呈することが多く、PETのみでは認識できないのが特徴です。集積が低いことが時に他の疾患との鑑別に役立ちます。
- 乳頭状腎癌はやや強い集積を呈します。
- 上記の種々の腎細胞癌の悪性度の高いものや肉腫様変性・紡錘細胞癌は、非常に強い集積を呈するため、悪性度診断に有用です。
- 悪性リンパ腫やベリニ管癌は強い集積を呈します。
- 良性腫瘍である、腎血管筋脂肪腫は腎淡明細胞癌と同等の集積を呈します。
FDG-PET/CTは、腎細胞癌の悪性度診断や他の疾患との鑑別診断、および再発・転移診断に有用です。腎淡明細胞癌では転移も集積が低いことがあり、注意を要します。
9.尿路上皮癌、膀胱癌
- 尿路や膀胱には、尿排泄された強いFDG集積があるため、これらの癌の原発巣の診断にはFDG-PET/CTは不向きです。
- これらの癌は強いFDG集積を呈することが多く、リンパ節転移や遠隔転移の診断には有用性が高いです。
2016年3月14日 相澤病院PETセンター 小口和浩
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